近年、家庭内の衛生意識の高まりや公衆トイレの清潔保持の観点から、男性にも座位での排尿を推奨する動きが広がっている。日本では特に家庭内での「飛び散り防止」のために、立位ではなく座位を選ぶ男性が増えている。しかし一部では、座って排尿することで陰茎を下方向に強制的に曲げる必要が生じ、排尿時に尿道や前立腺へ余分な負担がかかるのではないかという懸念が語られている。こうした背景から「座位排尿が前立腺や下部尿路疾患の増加につながる」といった報告があると耳にすることもある。
ただし医学的に確認されている事実は異なる。前立腺肥大症や下部尿路症状は加齢やホルモン環境、生活習慣など多因子によって発症することが知られており、座位排尿との直接的な因果関係を示す研究は存在しない。むしろ一部の臨床研究では、前立腺肥大症の患者において座って排尿する方が排尿効率が高まり、残尿量が減少するという結果も報告されている。これは座位姿勢の方が骨盤底筋が安定し、膀胱が十分に収縮できるためと考えられている。
つまり「座って排尿することで尿道が圧迫され、疾患が多発する」という言説は現時点では科学的裏付けに乏しい。むしろ座位排尿は家庭の衛生環境改善に役立ち、また高齢男性や排尿障害を抱える患者にとって有益である可能性すらある。今後も生活習慣と泌尿器系疾患との関連を追跡する研究は必要だが、現段階で過剰に不安を抱く必要はないだろう。
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